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地球温暖化のウソ? ホント?(18)地球温暖化問題でよく聞く「IPCC」って、いったいなに?

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2025/04/06 05:05 ウェザーニュース

地球温暖化の記事やニュースに、英語の略語の「IPCC」がよく出てきます。目にしたことがある人も多いでしょう。

( )付きで訳語が載っていることもありますが、それを見ても、よくわからないと思っている人が多いのでは?

そこで、気候変動問題の専門家で、IPCCの第5次と第6次の評価報告書の主執筆者でもある江守正多さん(東京大学 未来ビジョン研究センター教授)に、IPCCとはどんな組織なのか聞きました。

Q1/「IPCC」という言葉を見たり聞いたりします。この「IPCC」とは?

◆A/IPCCには科学者も関与していますが、基本的には各国の政府の集まりです。

IPCCは「Intergovernmental Panel on Climate Change」の略で、「気候変動に関する政府間パネル」と訳されています。人間活動による気候変化の影響が懸念されるようになったことから、1988年に世界気象機関(WMO)と国連環境計画(UNEP/ユネップ)によって設立されました。

IPCCは政府間組織で、2024年8月時点で195の国と地域が加盟しています。地球温暖化や気候変動の実態、さらにそれらが地球環境や経済社会へどのような影響を与え、どのように対策したら良いのかという問題について、科学的な知見を報告書にまとめ、広く一般に周知しています。

これはIPCCの一般的な説明ですが、そもそも「政府間パネル」の意味が今ひとつわからない人もいるでしょう。

Panel(パネル)には複数の意味がありますが、この場合のパネルは「パネルディスカッション」の「パネル」に近く、「委員団」「討論者団」「パネリストたち」といった意味です。
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「IPCCを科学者の集まりだと認識している人もいるようですが、そうではありません。IPCCのIntergovernmental Panelは『政府間パネル』と訳されていることからわかるように、IPCCのメンバーは政府です。つまり、IPCCは各国の政府の集まりなのです。

たとえば、IPCCの「総会」に集まってくるのは各国の政府代表団です。ただし、科学者も関与しています。IPCCには議長団と呼ばれる人たちがいて、彼らは科学者です。

そして、報告書の執筆者は科学者です。ざっくり言うと、政府代表の人たちが科学者たちを集めて、科学者たちが気候変動に関する報告書を作成している構図です。

『私はIPCCのメンバーです』とおっしゃる報告書の執筆者がたまにいますが、その言い方は間違いですね。IPCCの議長団のメンバーはいますが、報告書の執筆に参加している人はあくまで執筆者であって、IPCCのメンバーではないからです」(江守さん)

Q2/IPCCは幾つかのグループに分かれているって、本当?

◆A/本当です。IPCCには1、2、3の3つのグループなどが設置されています。

「IPCCは総会のもとに3つのワーキンググループ(WG/作業部会)が置かれています。

ワーキンググループ1は気候変動を科学的に評価するグループ、ワーキンググループ2は気候変動の影響や適応などを評価するグループ、ワーキンググループ3は気候変動の緩和について評価するグループです。

さらに、インベントリ・タスクフォースというグループがあって、方法論報告書という文書をまとめています」(江守さん)
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「温室効果ガスの排出量を各国が勝手な方法や基準で算定すると、当然、適切な気候変動対策はできません。そこで、インベントリ・タスクフォースで温室効果ガスの排出量の標準的な算定方法を決めているのです。方法論報告書はそのルールブックです。

日本では、この方法論報告書に基づいて、環境省が毎年、日本の温室効果ガスの排出量を公表しています」(江守さん)

Q3/IPCCの総会って、どんなことをしているの?

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IPCC総会 2014年3月25日午前、神奈川県横浜市=時事
◆A/報告書を承認することは、総会の重要な役割の一つです。

IPCCの総会では、IPCCの議長団の選出、報告書の目次や作成スケジュールの決定などをおこなっています。

ほかにどんなことをしているのか、江守さんは次のように話します。

「IPCCの総会の重要な役割の一つに、報告書の承認があります。報告書は気候変動に関する、その時々の最新の科学的知見をまとめた文書で、各国の気候変動政策などに大きな意味を持ちます。

IPCCの各報告書が作成される最終段階として、総会でその報告書の要約を一文一文議論して、承認します。

報告書を執筆するのは科学者たちですが、承認の過程では各国の政府から様々な意見が出ます。『この表現は変えたほうがよい』とか『この数字は盛り込むべきでない』とか。

これによって、科学的に間違ったことが報告されるわけではないのですが、各国の思惑や利害によって、表現などが調整されることはあります。

この点はIPCC総会の承認制度のデメリットともいえますが、これは反対にメリットでもあります。というのも、IPCCの報告書は科学者だけで勝手にまとめたものではなく、すべての国の政府が認めた報告書になるからです。

世界各国の政府が承認した文書なので、信用するに値するし、気候変動の交渉をおこなうときに各国の政府はこれを重んじるのです」(江守さん)

Q4/IPCCの報告書の執筆者はどうやって選ばれるの?

◆A/まず各国の政府がIPCCに自国の科学者の推薦書を提出します。

「報告書の執筆者の決め方は、平たく言うと、まず各国の政府が『私の国には、この章を担当できる、こういう科学者がいます』といった内容の推薦書をIPCCに提出します。

その後、議長団がいろいろなバランスを考えながら、執筆者を決めていきます。たとえば、国の地理的なバランス、先進国と発展途上国のバランス、科学者の専門分野、ジェンダー、年齢などのバランス。そうしたことを考慮して、報告書の執筆者を選んでいくようです。

ただ、今のところはまだ、先進国の科学者が多くなる傾向があります。

また、これまで男性の執筆者が多い傾向がありましたが、現在作成されている『気候変動と都市に関する特別報告書』では、初めて女性の執筆者が男性より多くなったそうです」(江守さん)

Q5/最近のIPCCの会合で注目すべきことは何かあった?

◆A/IPCCの総会にアメリカが参加しないという異例の事態が起こりました。

「IPCCの第62回の総会が今年(2025年)の2月24日から3月1日にかけて中国の杭州(浙江省の省都)で開催されました。

この総会で非常に注目されたことがあります。それはアメリカの代表団が参加しなかったことです。IPCC総会に出席する予定だった代表団の人たちの出席をトランプ政権が許可しなかったためです。

アメリカの参加者がゼロのIPCC総会は異例です。トランプ政権になった影響が気候変動問題の科学においても起こっています」(江守さん)

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IPCCという言葉はときどき見聞きするけれど、初めて知ったことがたくさんあった、という人も多いのではないでしょうか。

時代によって人々の考えは移りゆくものですが、その根拠となる科学的事実は変わりません。

ウェザーニュースは気象情報会社として科学的な立場から地球温暖化対策に取り組むとともに、さまざまな情報をわかりやすく解説し、皆さんと一緒に地球の未来を考えていきます。まずは気候変動について知るところから、一緒に取り組んでいきましょう。
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監修/江守正多 東京大学 未来ビジョン研究センター 教授(@seitaemori)